「あー、ほら、分かったから、もう泣かないで。これ飲んで落ち着きなさい」
「あう〜、ルイーダさぁ〜〜ん……」
 出されたコップにしがみついてトリスが泣きじゃくっている。周囲では他の冒険者もテーブルに就いてくつろいでいたのだが、今は全員の視線がその異様な雰囲気を醸している一角に釘付けになっていた。
「ちぃ〜っす。ルイーダさーん、トリス来てますかー?」
 外から気怠い挨拶の声がしたかと思うと、トリスは鷲掴みにしていたコップを放り出して椅子から立ち上がって、登録所のある二階に続く階段に向かおうとした。
「こらこら、ちょっと待ちなさいって」
 慌ててルイーダは遅れたトリスのマントの端を両手でつかんだ。
「きゃうっ!?」
 捕まれたマントに上体を取られて、トリスは盛大にその場に転げ落ちた。
「やーっ! 殺されるー! 放してルイーダさーん!!」
 逃げないようにと組み敷かれたルイーダの下で、トリスが悲鳴を上げて暴れ出す。
「だから、落ち着きなさいって。誰も取って食べようとしてるわけじゃないんだから」
「……何やってんスか、ルイーダさん?」
 床の上で二人体を重ねて揉み合っている様子を見て、外から来た女性、マリアが蒼い顔で一歩後ずさった。
「あー、そういうんじゃないから。誤解しないでよ。あなたが入ってこようとしたらこの子が逃げ出そうとしたもんだから、そうしないように押さえてただけよ」
「本当にそれだけですか……?」
 遅れてやってきたフィリスが、同じく引きつった顔で床に寝転がるトリスの様子を見た。
 相当激しく暴れたのだろう、髪はぼさぼさになり、着衣は乱れに乱れてあられもない状態になっている。さらに先程まで泣きじゃくっていただけあって、顔は全面濡れそぼり、目は真っ赤に充血している。
 この状態でルイーダに組み敷かれているのだから、前後関係が分からずに居合わせれば、誰だって彼女に乱暴にされたか、あるいは手籠めにでもされたとしか思えないだろう。
「本当に何もしてないからね。ほら、連れ戻しに来たんでしょ。ちゃっちゃとお持ち帰りして頂戴」
 すっかり疲れ切って抵抗しなくなったトリスの首根っこをつかんで、ルイーダは彼女を先頭に立つマリアに引き渡した。
「…………どーも」
 まだ呆然としたまま、マリアが放り出されたトリスの体を受け止める。その傍らで、フィリスは酒場の中を見渡していた。
「ルイーダさん、あそこ借りていいですか。お騒がせしませんから」
 フィリスは酒場の隅っこにある薄暗い一角のテーブルを指差した。
「はいはい、好きにして頂戴。じゃあ、私は仕事に戻るからね」
 ルイーダも随分疲れた様子で、カウンターの方に戻っていった。相当トリスのお守りに手を焼いていたらしい。
「取りあえず、落ち着いて、ゆっくり話しよっか。大丈夫、ミリーは家で大人しくしてなさいって、追い出しておいたから」
 フィリスはマリアと一緒に、トリスを促して静かな酒場の一角に向かっていった。

「……で、あんたは何でここにいるわけ?」
 酒場の近くにある家。
 ミリーの母親が買い物を終えて帰ってくると、その台所で所在なく座っていたミリーを見かけて唖然となった。
「……分からない。離れた仲間を連れ戻しに来たんだが……酒場に行こうとしたら他の二人に追い出された」
「また何か変なことでも言い出したんじゃないでしょうね」
「さあ。ただ私は……」
「ここでボケーッとしてるくらいなら、あんたの部屋に行ってなさい。邪魔よ」
 口を開きかけようとしていたミリーを無理矢理立たせると、彼女はミリーを台所から二階へと追い出していった。

 階段を上る足音が聞こえなくなったところで、彼女は頭が痛くなったような気がして眉間を押さえた。

[とりあえずEND]

 

 

 

 

あとがき

 日本の夏、妄想の夏ー!!!

 またまた書きました、このシリーズ♪
「うっわ、コイツ懲りてねーよ! てゆーか、さらに悪ノリしてやがるよ!」
 とか言う声が聞こえてきそうですが(笑)

 例によって例のごとく、思いつきで「がーっ」と書いてます。
 途中でワケあって執筆止まったために、書き出した時には「夏には早いよねー」とか言ってたのに、結局、冒頭の言葉が似合う季節になっちゃいました☆
 ・・・・・・ダメじゃん、自分(爆)

 もひとつ例のごとく、設定は「夢見のめもりー」の方で。
 ・・・うーん、設定見れば見るほど、本来の性格から離れつつあるなー(笑)
 今回もやたらフィリスが一人苦労背負ってるし。
 「くじけぬこころ」でも装備してるようです、彼女(笑)

 今回はフィリスを中心に話を回したので、冒頭で新たな設定が出てきてます。
 でも、あんまり関係ありません!(えー)
 一緒に修行したという友人も出す予定ありません(えー×2)
 いーもん、どうせ勢いだけで書いた代物だから♪((えー) 3

 えー、さてさて、懲りてない作者、実は次も書く気満々です!(断言したー!)
 もうここまで行くと、旅立ちからすべて書いてしまいたいくらいですが。
 ・・・でも、最初の話で既に賢者がいるからなー。辻褄合わせるとダーマ以前の話がどだい無理だし、うーん・・・
 なんかいろいろ考えられはしそうですが、まあそれは後のお楽しみで。

 では、次会う機会がありましたら何卒よしなにー。



 それにしても、この話、ホントの801好きに見せたらタコられそうだなー(笑)

2005年7月4日 群雲ハルカ


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