第3章
▼FRAY▲
ぱちぱちと立てられる焚き火の音がさっきからやかましい。おかげでちっとも眠れない。
俺は一度草の上で寝返って、焚き火に背を向けた。
その時、耳元で茂みをかき分ける音がした。
「ん……」
俺は喉の奥でうなり声を上げて、もう一度寝返りをうった。
「あっ、わりぃ。起こしちまったか?」
バティが声を潜めて謝った。
「いや、最初から起きてた」
目を開けると、焚き火の側でバティが腕を組んで困ったようにしているのが見えた。
「なんだよ、頼むから寝てくれって言ってるだろ? 寝てくれなきゃ見張りの交代もできないだろ。俺は夜通しの番なんて御免だからな」
分かってるよ、それくらい。けど、眠れないものはしょうがないだろ。
そう言うのもおっくうになって、俺はもう一度バティとたき火に背を向けた。
「ちっ、分かってんのかよ」
バティが悪態をついている。けど、バティは舌打ちをしてすぐ番の作業に戻った。口は悪いが、根はやっぱりいい奴だな。
「なあ、フレイ」
バティが声をかけてきた。
何だよ、俺に寝て欲しいんじゃなかったのか?
「……どうした?」
「別に俺がどうこう聞くことじゃないのかも知れないけどさ、サンタローズを出てから、お前変だぞ。何かあったのか?」
「…………」
俺は何も答えない。というか、答えが分からない。
俺は、自分で自分が変だとは思っていない。むしろ、変なのは俺じゃない、アネットのヤツだ。そう俺は思っている。
サンタローズを出てから今日まで、アネットは前にも増して塞ぎ込むようになりやがった。オラクルベリーを出た時にはようやくあいつも心を少し開いてくれるようになったと思ったのに、またあの調子だ。気になってこっちが声をかけても、決まり切ってだんまりうつむくだけ。
ここしばらく、フレミーノにいた時からずっとそうだったが、最近になってますますあいつの考えていることが理解できなくなってきた。
俺はただ兄貴として、身内として、あいつのためにできることなら何か少しでもしてやりたい、そう思ってるのに、近頃のあいつは俺にすら心を開いちゃくれない。
……くそ、何をいら立ってんだ、俺は?
「……悪かったな、寝ようとしてたのに起こしちまって」
不意にバティが謝ってきた。明らかに寝ていそうにないのに背を向けて黙り続けている俺を見て、俺が機嫌を悪くしたとでも思ったのだろうか?
「いや……いい」
何だか俺はそれだけしか言う気にもならなかった。折角バティも俺のことを気にかけてくれてるのに、悪いことをしちまったな。
…………そうだな。俺が気にしてもしょうがないことだ、な。あいつはあいつで、何か気にかけていることがあるんだ。それがあいつ個人のことなら、俺がどうこう口出しできる立場じゃない。だったら、あいつが自分から口を開いてくれるまで、ゆっくり待ってやればいいんだ。
それが、俺があいつの兄貴としてできる、最低限のことだよな。
けど……
やっぱりなんだか、割り切れないな……
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